JKC(全日本フルコンタクト空手コミッション)、さらにはJKJO(全日本空手審判機構)の代表としての4年間の任期、お疲れ様でした。また、再選おめでとうございます。これまでJKCおよびJKJOの発展をどのような思いで進めて来られたのか、ここまでの軌跡とともに想いを聞いてみた…
――酒井代表は、2020年にJKJOの代表に就任されました。当時、JKJOは極真会館や新極真会に続くメジャー団体として注目を浴び、周囲もJKJOが今後どのように伸びていくか、注目するところだったと思います
酒井 私が選任を受け最初に着手したかったのは、フルコンタクト空手が社会スポーツのひとつとして幅広い年齢層に親しまれるように定着化を図ることでした。ジュニア空手が盛況であるのは喜ばしいことなのですが、その一方で子供たちが年齢を重ねるごとに、受験や進学などで辞めてしまうなど人口が減っていくという傾向がありました。これを解決したいという強い気持ちがありましたし、それは今も課題となっています。
――酒井代表のそうした気持ちの一方で、2020年は新型コロナウイルスのパンデミックにより社会生活はもちろんのこと、各種競技にも大きな影響がありました。代表就任からわずか3ヶ月の11月、JKJO第12回全日本大会開催の判断をしなければならないという事態に直面されました
酒井 これは非常にむずかしい判断でした。社会情勢からすれば中止も止むなしというなか、それでも「ジュニア、一般を問わず選手たちは大会を目指して稽古を続けている」という多くの所属道場からの声を聞き、ならば衛生面での徹底化を図ることで大会を開催できないか、という方向で動き始めました。会場での人の流れや接触、消毒などの徹底はもちろん、関係各社にはジュニア選手たちのための飛沫を防ぐためのシールド付きのヘッドガードを開発していただき、一般にはマスクを着けて試合をしてもらいました。賛否両論あったことは重々承知です。その一方で大会後に感染が報告されなかったこと、さらには各参加道場、選手たちから大会に参加できてよかったという喜びの声が届いたことは、我々主催者にとって大きな救いとなりました。この大会は、私にとってもJKJOにとってもターニングポイントとなった大会でした。
――翌2021年、あらたにJKCを発足し、ここでも代表を務められることになりました
酒井 フルコンタクト空手の社会浸透を図るために、より強固な体制を築く必要があると感じていたので、就任時よりJKJOの各諸先輩方をはじめとして周囲の方々に相談をし、「JKJO」「武神」「統一世界武道空手道連盟」「IKA国際空手協会」の4つのフルコンタクト空手組織を統括する組織であるJKCを設立しました。
――これによって、2021年には第1回JKJO全日本シニア大会を開催、さらには2022年にフルコンタクト空手による初のインカレが開催されました
酒井 まずはフルコンタクト空手を愛する人たちのために目標と活躍の場を設けたい、そう思って、年を追うごとに増え始めていた壮年層に向けたシニア全日本を開催しました。優勝者にはお米を提供するなど“お祭り”的なムードもありましたが、これも選手を支えてくれているご家族も含めて楽しんでもらいたい、空手を愛してもらいたいという気持ちからでした。
インカレについても、先にも申しましたとおり、高校を卒業しジュニア・カテゴリーから一般部へステップアップする年齢になってもフルコンタクト空手を続けてもらいたいという思いから、就任当時より構想がありました。岸田文雄先生(元・内閣総理大臣)、河野太郎先生(元・国務大臣)にもご相談を重ねながら、UNIVAS(一般社団法人 大学スポーツ協会)に準加盟を果たすことができ、これにより”フルコンタクト空手が大学スポーツの一種目である”という社会的認識を得て、フルコンタクト空手によるインカレ開催を実現しました。
――第1回大会には、永岡桂子・文部科学大臣(大会開催時)も来場されました
酒井 全日本学生選手権として認められれば、大学生や大学院生、専門学校生ら学生たちにとってもひとつの目標となりますし、ご父兄らの理解も深まるはずです。またフルコンタクト空手で頑張ってきたことが就職などへの一助にもなれば、そこに選手たちの努力の新たな意味も生まれます。
フルコンタクト空手の社会体育としての地位獲得への働きかけが、多くの方々のご協力のもと、ひとつの結実を見たと関係者一同、全員で喜んだのを覚えています。
ーー<スポーツ>と<武道>の違いについて、一言持っていらっしゃる方もいると思いますが、どうお考えですか
酒井 柔道などと同様、社会への浸透を図ればルールの細分化や厳密化、また他のスポーツと同様の運営方法は当然必要になってきますが、先生方や競技者たちが<空手は武道である>という精神性を忘れずに稽古し、また振る舞えば、そこに武道性は宿り続けると考えています。これは、まず指導者側が意識しなければならないことだと思います。
――2022年、JKCはこれまでフルコンタクト空手界になかったセコンドライセンス制度を導入しました
酒井 フルコンタクト空手が社会から支持を得るには当然、品位と質が必要になります。<選手をサポートするセコンド>と<応援>は別物です。試合において、選手に技と心が必要なのと同様、セコンドもセコンドとしての技術と品位が必要であると考え、導入に至りました。
先に<スポーツと武道>というお話がありましたが、このセコンドライセンス制度はフルコンタクト空手が武道であり続けるための所作振る舞いなど品位を育成する一助になるとも考えています。まだまだ途上ではありますが、JKJOは強さと美しさ、そして品位を兼ね備えた空手を目指していきたいと思っています。
――フルコンタクト空手は個人競技だというイメージがありますが、2023年にはジュニア選手による団体戦「JKJOチームバトル」が開催されました
酒井 競技である以上、勝敗が取り沙汰される世界ではありますが、子供たちにはフルコンタクト空手を通して多くのことを経験し、学んでもらいたいという気持ちがあります。年に一度のJKJO全日本ジュニア大会への出場権を懸けて、普段はライバル同士であるジュニア選手たちが、地区対抗による団体戦「JKJOチームバトル」でチームメイトになり、互いに応援し合う。これは子供たちにとって世界が広がるすばらしい体験であり、また他者への思いやりなどを育む絶好のチャンスだと思っています。これもまだ発展途上ではありますが、将来的には確かな形にしていきたいと思っています。
――そういった意味では、2024年から行われている一般部のトップ選手を集めた『比叡山強化合宿』も同じようなコンセプトなのでしょうか?
酒井 おっしゃるとおりです。JKJOのみならず、他流派のトップ選手も参加していただき、切磋琢磨し交流を図る。また、『比叡山強化合宿』が定例化し、それがひとつのステータスになれば、参加を目指して頑張ってくれる若手選手たちも増えることと思います。日本のトップ選手たちが、ひとつの釜の飯を食べて、技と心を磨き合う。関係が深まれば、合宿で一緒に稽古したライバルの試合で頑張る姿を見て、これまで以上に感じ入る気持ちも湧き出てくるでしょう。空手が比叡山延暦寺で合宿を組むのは、1200年の歴史で初めてのことです。それに恥じない価値あるものに育てていきたいと思っています。
――2025年2月には、読売テレビと共催による「第1回西日本学生フルコンタクト空手道選手権大会(西日本インカレ)」が開催され、4月にはJKJO加盟団体が300団体を超えました
酒井 大衆に大きな影響力を持つテレビが、体育館ではなくテレビ局内に試合場を設けて大会を放映して下さったことは、我々はもとより、選手やご父兄にも大きな励みになったと思います。テレビ局との共催で、フルコンタクト空手によるインカレがまたひとつの市民権を得たと見ていただけるのなら、うれしい限りです。こうしたことによって、今のジュニア世代の道場生たちがフルコンタクト空手のインカレを目指し、多くの人が空手を続けてくれれば言うことはありません。
また、そうしたことの力の源泉になるが団体であり、道場ですので、加盟団体が300を超えたというのは可能性のバロメーターだとも思っています。JKJOのみならず、JKC加盟団体すべてが一丸となって、フルコンタクト空手の未来を作っていきたいと思っています。
――今年9月8日には、酒井代表の第2期選任が決まりました。今後、どのようにJKJOを発展させて行きたいと考えていますか?
酒井 フルコンタクト空手が社会スポーツとして発展し、多くの人が愛する生涯スポーツとして定着させたいという思いは今も変わりません。ジュニアから一般、シニアを対象としたJKJO全日本大会、さらには大学生、専門学校生を対象としたインカレについては、ステータスアップを図るとともに、参加者たちの満足度を上げていきたいと思っています。それには話題性や大会整備を必要でしょうし、観客側に立てば強さや技の華麗さも必要でしょうし、品位も重要だと思っています。参加者、観客双方の満足度を得るには、時にショーアップも必要になってくるでしょう。
やりたいことはいっぱいあります。現在もひとつひとつを実現すべく、多くの方にご相談しご協力を仰いでいます。それもすべて、フルコンタクト空手が多くの人に愛されればという思いからです。是非、ここから2年、フルコンタクト空手を通して、みなさんとすばらしい時間を過ごせたらと思っています。
・2020年11月 コロナ禍で大会自粛の中、JKJO全日本ジュニア強行開催
・2021年9月 JKC発足
・2021年9月 第1回JKJO全日本シニア大会開催
・2022年4月 JKC個人会員登録制度開始
・2022年11月 第16回JKJO全日本ジュニアより文部科学大臣杯となる
・2022年11月 フルコン界初のインカレ開催
・2023年4月 セコンドライセンス制度初導入
・2023年7月 東京・秋葉原にJKJO&JKC本部事務局開設
・2023年9月 ジュニア選手による団体戦「JKJOチームバトル」開催
・2024年3月 トップ選手を集めた比叡山合宿を開催
・2025年2月 読売テレビと共催による「第1回西日本学生フルコンタクト空手道選手権大会(西日本インカレ)」開催
・2025年4月 JKJO加盟団体が300団体に